497)「敗血症の診断~フローチャート~」 敗血症の診断基準として,Sepsys-3にSOFAスコアとquickSOFA(qSOFA)が採用されました。ICUではSOFAスコアを,ICU外ではまずqSOFAを用いることが示されました。 SOFAスコアには①呼吸器(PaO2/FiO2(動脈血酸素分圧/吸入酸素濃度):呼吸不全の指標),②凝固能(血小板数),③肝機能(総ビリルビン),④循環機能(平均動脈圧),⑤中枢神経系(グラスゴーコーマスケール:GCS),⑥腎機能(クレアチニン・尿量/日)が含まれています。 qSOFAには収縮期血圧,呼吸数,意識障害(GCS)が含まれています。2.プロカルシトニン(PCT)とは◆Keyword:カルシトニン,甲状腺ホルモン,カルシウム調節ホルモン,細菌性敗血症1)「プロカルシトニンの構造」 プロカルシトニン(PCT)はカルシトニンの前駆物質であり,甲状腺の傍濾胞細胞(C細胞)で産生されます。N末端部分(NTpro-カルシトニン),カルシトニン,カタカルシンの3領域から構成されるPCTは分子量約13,000,アミノ酸数116個のペプチドです。PCTから分解されC細胞から分泌されるカルシトニンはアミノ酸数32個のペプチドで,甲状腺ホルモンの1つです。 カルシトニンは血中カルシウム濃度の上昇により分泌が促進され,カルシウム濃度が低下すると分泌が抑制されます。結果として,カルシトニンは血中カルシウム濃度を下げる役割をしています。ほかに甲状腺ホルモンには,濾胞細胞から分泌されるサイロキシンとトリヨードサイロニンがあります。 また,生体内でカルシトニンと拮抗する作用を持つ物質として,上皮小体(副甲状腺)から分泌されるパラトルモン(PTH)があり,PTHはアミノ酸数84個のペプチドです。血中カルシウム濃度はPTHとカルシトニンによって一定に保たれています。2)「プロカルシトニンの分泌」 通常は甲状腺C細胞で産生されたプロカルシトニン(PCT)が分解されてカルシトニンが生成し,血中に分泌されています。健常人の血中に存在するPCT濃度は極めて低いとされています。 一方,細菌性敗血症では炎症性サイトカインの作用により全身の細胞でPCTが産生され,そのまま分解されずに血液中に分泌されます。 血中に分泌されたPCTは単球の遊走を惹起し,細菌の貪食能を高めます。PCTの作用によってTリンパ球が活性化され,生体防御に向けた反応が促進されます。この時PCTはCRPより早く上昇し,治療効果により早く低下すること,また,PCTは敗血症の重症度を反映することから,敗血症に有用な検査であることが確認されています。3)「PCTの偽陽性と偽陰性を生じる可能性のある疾患・病態」 PCTが偽陽性(細菌感染を伴っていないのに,PCTが高値を示す場合)と偽陰性(細菌感染を伴っている状態にもかかわらず,PCTが低値を示す場合)を生じる可能性がある疾患・病態を列挙しました。 医療の進歩に伴い増加傾向を示す敗血症について少しでも理解を深めて頂けますと幸いです。敗血症診療におけるPCT測定の有用性についてもご理解頂けますとありがたいしだいです。今後もみなさまのお役に立てる情報提供に努めさせて頂きます。 また,本研修会終了後の変化として,以下の2点を挙げておきます。1)本年6月より診療報酬改定により,プロカルシトニンの点数が,284点から276点に下がりました(8点減)。2)日本版敗血症診療ガイドライン2024が6月に関連学会ホームページで公開されました。東京都医学検査 Vol. 53 No. 1Ⅲ.まとめ
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