東京都臨床検査53巻1号
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ロイド病理が存在している場合に,はじめてその効果が発揮されることになる。そのため,治療を開始するにあたっては,あらかじめ患者の脳内でAβが蓄積しているかどうかを確認しておくことが必要である。現在,脳内アミロイド病理の有無を確認する方法としては,陽電子放射断層撮影(Positron Emission Tomography:PET)検査と,脳脊髄液(Cerebrospinal Fluid:CSF)検査の2種があげられる。 PET検査では,脳内に沈着したAβに対して特異的に結合可能な放射性プローブを投与することで,脳内アミロイド病理の有無を視覚的に判別することができる。一方CSF検査では,脳内でのAβの沈着が進行したことによって生じる,CSF中のAβ量の減少を検出することによって,脳内アミロイド病理状態を推定している。しかしながら,これらの検査はアクセスや検査コスト,患者への侵襲性の点で課題が残る。 そこでシスメックスでは,血液を用いた検査によって,簡便で安価に脳内のアミロイド病理状態の把握を補助することが可能な新規診断技術の開発に取り組んできた。 開発した血液Aβ測定法は,アミロイドPET検査によって決定された脳内アミロイド病理状態を,感度88%,特異度72%,全体一致率80%で予測できることを確認している。現在は本技術の社会実装に向けた取り組みを加速させており,間もなく訪れるであろう疾患修飾薬を用いた認知症治療の新時代の到来に合わせ,血液検査を活用した認知症診断の実現を目指している。『認知症とアミロイドβについて』■開催日:2024年6月26日(水)■講 師:シスメックス株式会社岡田 敬司■生涯教育点数:専門―20点 世界的な高齢化の進行に伴い,国内外で認知症の患者が増加することが予測されている。そのような環境下において近年,疾患修飾薬と呼ばれる新しいタイプの認知症治療薬の開発が加速している。昨年7月にはレカネマブが正式承認され,疾患修飾薬を用いた認知症治療が可能になりつつある。 これら疾患修飾薬は,いずれもアルツハイマー型認知症(AD)と呼ばれる,認知症の中でも最も患者数が多いとされるタイプの認知症に対する治療薬である。ADは連続的に原因病理が進行する疾患であるとされており,認知機能が低下する20年以上前から,脳内でアミロイドβ(Aβ)と呼ばれる物質が凝集・沈着しはじめることが知られている。このような脳内変化はアミロイド病理と呼ばれており,続いてタウ蛋白質の異常リン酸化と凝集(タウ病理)が生じ,最終的に神経細胞死(神経変性)に至ると考えられている。 現在開発が進められている疾患修飾薬の多くは,これらの脳内で生じる病理変化のうち,アミロイド病理を対象としたものである。これらの疾患修飾薬は,脳内で生じたAβの凝集・沈着物に対して直接作用・除去することにより原因病理の進行を抑制し,認知機能の低下を遅らせる効果があるとされている。 このように,疾患修飾薬は作用対象となるアミ50東京都医学検査 Vol. 53 No. 1

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