V1およびV2誘導は右側胸部誘導であるので初期『臨床心電図』イントについて下記に記載する。<波形診断> 波形診断をするには,心臓における刺激伝導系を介した正常の電気の流れを理解するとよい。洞結節→心房筋→房室結節→His束→右脚と左脚(前枝・後枝)→Purkinje線維→心室筋,と電気的興奮は伝わっていく。これを理解したうえで,波形の名称とその意味について理解することを勧める。なお,心筋が電気的に興奮することを「脱分極」,興奮から脱却することを「再分極」とよぶので,覚えるようにする。 P波:心房の脱分極を表す。心房には右房と左房があるので,P波は右房と左房の脱分極の融合波である。P波にはいくつかの形態がある。P波はaVR誘導とV1誘導を除いて上向きの振れ(陽性P波)が正常である。aVR誘導では下向きの振れ(陰性P波),V1誘導では二相性P波を示す。疾患により,二峰性P波,先鋭P波,平底P波を呈することがある。 QRS波(群):心室の脱分極を表す。心室には右室と左室があるので,QRS波は右室と左室の脱分極の融合波である。しかし,刺激伝導系を介して瞬時に末端まで伝えられ,心室全体がほぼ同時に興奮することから,QRS波の成分のどこが右室または左室由来であるかの判断は難しい。ただ,成分は主に右室由来,V4~V6誘導は左側胸部誘導であるので初期成分は主に左室由来といえる。QRS波の振幅が高いときは,心室における起電力が大きい。もっとも典型的なのが左室肥大の場合である。QRS波の幅が広いときは,心室内の伝導時間が長くかかっている。もっとも典型的なのが脚ブロックである。QRS波のなかでQ波は明瞭でないことが多く,仮に区別できたとしてもごく小さなものである。もし,大きな(異常)Q波が記録されれば,心筋梗塞の既往があると判断する。QRS波の終末部にノッチが記録されることがある。J波またはε(イプシロン)波とよばれる。J波は下壁誘導(II・III・aVF)または側壁誘導(I・東京都医学検査 Vol. 53 No. 1 53■開催日:2024年7月3日(水)■講 師:東邦大学大学院医学研究科循環器内科学池田 隆徳■生涯教育点数:基礎―20点 心電図は日常臨床においてもっとも活用度の高い検査であるが,心電図の読みを苦手としている医師は多い。なぜ心電図の読みが難しいかということを考えた場合,幾つかの理由が考えられる。一つは,心電図は心エコーや冠動脈造影などの画像検査と違って,目で見て異常を確かめることができないことである。あくまでも心臓内の電気現象を紙面で記録したものであるため,その背後に隠れている病態までも考慮した洞察力が要求される。二つ目は,心電図には正常例においてもバリエーションがあり,どこまでを正常とし,どこからを異常とするかという明確な境界がないことである。正常例,異常例を含めてある一定以上の数の心電図を判読した人でないと正確な診断ができない。三つ目は,専門用語が他に比べて多いことである。若い心電図初心者にとってはなんだか敷居が高いように感じるのかもしれない。それらを払拭するには,まずは日常臨床で遭遇することの多い心電図異常の典型例を専門用語とともに少しずつ覚えていくしかない。 心電図をうまく判読するには,まずは今さら聞けないような基本中の基本を含めた,心電図の読み方について習得する必要がある。心電図には,(標準)12誘導心電図,ホルター心電図,モニター心電図など様々な種類があるが,基本となるのは12誘導心電図である。12誘導心電図の読み方の基本は,①記録条件の確認,②調律診断(整・不整),③電気軸と心臓回転の判定,④誘導ごとの波形診断,の順で行うのが原則である。初心者の段階では,この原則に従って心電図を読むことを勧める。ある程度心電図を読めるようになると,そのなかの②調律診断(整・不整)と④誘導ごとの波形診断に重点を置いて判読すると,素早く心電図を読むことができる。ここでは,波形診断のポ
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