●クレームの初動対応について自己満足に過ぎない一方で,身だしなみは他者の視点,特に医療現場にふさわしいかどうか,ということです。最近では,個人の選択肢が増え,服装や髪型が自由になっていますが,それでも相手が不快に感じる結果となれば信用を失うことにつながります。医療における身だしなみの基準は,診察や診療を行う施設の特性を考慮し,患者さんやそのご家族の主観を重視する,このような視点から医療現場での身だしなみを見直すことが,より良い信頼関係を築くことにつながると思います。 患者さんやご家族に初めて対応する際には,患者確認を行います。マスクを着用しているため,笑顔が見えにくいですが,穏やかな口調で「こんにちは。臨床検査技師の〇〇です」とご挨拶をしてみましょう。このご挨拶が,相手の気持ちや状態を推察するきっかけになります。研修を受けた技師の方からは,「ご挨拶した際の患者さんの反応を見て,声のトーンやスピードを臨機応変に調整しています」とのご報告を賜りました。このように,「挨拶」が患者さんへの対応において重要な役割を果たしています。 患者さんのニーズは「安全・安心・納得」の3本柱と考えています。そのため,不安や疑問を解消し,信頼関係を築くことが非常に重要です。対応時には,態度や所作,声のトーン,スピード,抑揚に配慮するだけでなく,アイコンタクトを取りながら,「ゆっくりで大丈夫ですよ」,「わからないことがあれば,どうぞお聞きください」と声をかけてみましょう。このような医療従事者からの何気ないお声がけは「お薬ことば」と説明しているのですが,癒し効果が高いと感じています。また,お願いをする際には,「こっち向いて」といった表現は馴れ馴れしく感じられることがありますし,声のトーンが強いと上から目線に受け取られることもあります。そこで,「すみませんが,こっちを向いてください」といったクッション言葉を遣う,「こっちを向いてもらえますか?」という依頼形にすることで,より受け入れやすく,自然なコミュニケーションができるようになります。260東京都医学検査 Vol. 53 No. 2 「クレーム」と聞くと,嫌だな,聞きたくない,話を聞いて謝っておこう,とネガティブな気持ちになることもあります。クレームとは,苦情や文句と思いがちですが,「当然の主張」が本来の意味です。相手の主張を事務的にやり取りするのではなく,①速やかに謝罪②主張の裏にある事情や心境を察知し限定謝罪③共感しながら問題点を確認④解決策・代替案などご提示⑤ご意見・ご指摘に感謝,というステップで冷静に対応します。事例として腹部エコー検査中に,手術痕へのプローブの圧迫がきついと患者さんからクレームを受けた場合の対応ステップを示します。①〇〇さん(患者さんのお名前),配慮が足らずすみませんでした。②圧迫したことで痛みなどご不快な思いをさせてしまい,誠に申し訳ございません(下線部分:相手に寄り添うために限定した伝え方,限定謝罪が大切です)。③痛みは続いていませんか?具合はいかがでしょうか?④少しご休憩いただき,検査のお時間を調整しましょうか?⑤今後は,検査前に状況を確認します。お伝えいただきありがとうございます。 患者さんの手術痕には心の傷も伴います。そのためクレームは単なる文句ではなく,「期待値」であると捉えることが重要です。お怒りの言動をすぐにペイシェントハラスメントと決めつけるのではなく,怒りの一次感情と,背後にある配慮や安心を求める気持ち,辛さや恥ずかしさ,といった二次感情を察知し,深く堀りさげることが必要です。クレームへの対応は職場の改善,医療提供の質向上に寄与する側面もあります。初動対応では患者さんの不安を受けとめ,冷静な「対話」を試みることが大切です。対話の際には,❶ヒアリング:今後の検査のために圧迫具合や体勢について患者さんの意見を伺う。❷アクション:意見を参考にした圧迫方法を試みるなど具体的な改善策を
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