■開催日:2024年11月7日(木)■講 師:札幌医科大学医学部感染制御・臨床検査医学講座髙橋 聡■生涯教育点数:専門―20点 梅毒トレポネーマは,Phylum Spirochaetae(門),Class Spirochaetes(綱),Order Spiro-chaetales(目),Family Spirochaetaceae(科),Genus Treponema(属)に属する螺旋状細菌である1)。梅毒トレポネーマはTreponema pall-であるが,いくつかの亜種が存在する。 梅毒トレポネーマは,宿主の外部では生残することができず,さらに,感染性をも失う。原因微生物に関する研究が遅々として進まない理由として,梅毒トレポネーマが人工培地での培養が困難であることが挙げられる。研究や検査のためにはウサギの精巣内で増殖させることになる。動物実験から得られている興味深い所見としては,梅毒トレポネーマをウサギの精巣,もしくは,皮膚に感染させた後,数分以内に血流から検出されること,同様に皮膚,骨,脾臓,リンパ節,脳脊髄液からも検出されるとの報告がある2)。実際,初期硬結や硬性下疳を呈する患者のCT画像では,鼠径部,腹部・骨盤部リンパ節腫脹や胸腔内の結節などの所見を認めることがあり,ヒトにおいても同様の現象が生じている可能性が推測される。 梅毒の診断は,外陰部や皮膚などの病変部からの梅毒トレポネーマを直接検出することが最も適切と考えられる。しかし,直接検出法である,暗視野顕微鏡による観察,直接蛍光抗体免疫染色法,162東京都医学検査 Vol. 53 No. 2『梅毒抗体検査~その重要性と問題点』梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum subspecies pallidum)特徴梅毒抗体検査idum subspecies pallidum(以下,T. pallidum)検体のpolymerase chain reaction(PCR)法を用いた検出については,方法が煩雑であり,陰性所見であっても梅毒を除外することができないなどの欠点から臨床現場での日常的な使用は困難である。PCR法を用いた検出については,国内外を問わず研究が進められているが,臨床での確立された検出法となるには,今しばらくの検討が必要である。硬性下疳の潰瘍底など湿潤病変からは検出が可能との報告があるが,初期硬結や皮膚病変からの検出は困難な場合が多く,検査の陰性結果を真の陰性と判断しずらい。また,前述したように梅毒トレポネーマは人工培地での増殖が困難であり,感染症診療の基本である感染症の原因となる病原微生物の同定ができないという厳しい状況にあるといえる。 梅毒トレポネーマを直接観察すること,もしくは,人工培地により増殖させることが難しいため,血液中の抗体価を測定することで,診断の主たる補助とすることとなる。梅毒診断のための梅毒抗体検査は,梅毒トレポネーマを抗原とする梅毒トレポネーマ抗体検査と,梅毒トレポネーマの感染により感染細胞から放出されるカルジオリピンを抗原とする非トレポネーマ脂質抗体検査の二種類がある3)。前者は,FTA-ABS(fluorescent trepo-nemal antibody absorption test)法,TPPA(Treponema pallidum particle agglutination test)法,イムノクロマト法,TPLA(Treponema pallidum latex agglutination)法などがあり,わが国では自動化機器を用いた自動化法としてラテックス凝集法を原理とするTPLA法が普及している。従来は,梅毒抗体検査は,用手法による半定量値の報告であったが,現状では,自動化法が普及してきており,連続した数値による定量値により報告される。自動化法の利点としては,(検体数にもよるが)低コスト,検査技師の検体曝露の危険性軽減,(適切な設定での)プロゾーン現象による偽陰性の防止が挙げられる。 梅毒血清反応の解釈(表1)としては,梅毒トレポネーマを抗原とする梅毒トレポネーマ抗体検
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