175■開催日:2024年9月24日(火)■講 師:東京品川病院 臨床検査科 病理山里 勝信■生涯教育点数:専門―20点 尿沈渣では上皮細胞,白血球や赤血球などの血球成分,円柱,結晶など様々な成分が見られる。検査を行う上では,これらの成分を同定ながら,観察していく必要がある。沈渣にみられる上皮細胞は,主に泌尿器領域の臓器内腔を覆う粘膜から剥離してきた細胞で,個々の成分の特徴を把握するのは当然のことであるが,その細胞が剥離する前の状態やその臓器の機能や構造を知ることは,尿沈渣をはじめとする検査の意義を理解する上で重要である。 今回の研修会では,泌尿器系臓器の基本的な構造と機能,主だった疾患や細胞像について述べていく。 腎臓は老廃物の処理(尿の生成),電解質の調整,エリスロポエチン分泌やレニンの分泌による血圧調整などに関与する臓器で,左右1対あるソラマメ状の実質臓器である。尿のもととなる血液は,大動脈から左右の腎動脈が分岐して腎臓へと送られる。さらに腎動脈は区域動脈,弓状動脈,小葉間動脈を経て,輸入細動脈として糸球体内へ入り込む。腎の最小単位であるネフロンはボーマン嚢,糸球体,近位尿細管,ヘンレの係蹄,遠位尿細管,結合管,集合管で構成され,輸入細動脈から流入してきた血液をろ過および再吸収を行って尿を生成する。『尿沈渣に必要な腎泌尿器の構造と病理』Ⅰ.はじめにⅡ.腎臓ⅲ.尿管・膀胱・尿道 1.原尿のろ過:糸球体では毛細血管の内皮細胞,血管基底膜,血管周囲を覆う足細胞の3層構造による物理的な障壁機構(サイズバリア)と血管内皮や足細胞を覆うGlycocalyxによる荷電での障壁機構(チャージバリア),糸球体の血管内圧により血液をろ過する。 腎炎などではこれらの機構が変化するため機能の低下などが現れる。その場合,腎炎の重症度の把握や分類を行うために腎生検が施行され,病理検査ではPAS染色,PAM染色をはじめとする特殊染色,蛍光抗体法,電子顕微鏡検査などが行われる。 2.再吸収:糸球体で生成された原尿は,次に近位尿細管,ヘンレの係蹄,遠位尿細管,結合管,集合管を通過する際に9割近くもの原尿が再吸収され,電解質の調節なども行われる。こうして生成された尿は腎乳頭から腎盂,尿管を経て膀胱へと送られる。尿細管を覆う上皮は,単層立方上皮であるが,近位尿細管上皮はとくにミトコンドリアが発達しているため,光学顕微鏡像では細胞質は顆粒状にみえる。また,内腔面には電子顕微鏡で観察できる微絨毛があり,これにより表面積が大きくなっているため再吸収を効率よく行うことができる。 腎盂,尿管,膀胱,尿道の一部までの内腔は尿路上皮細胞で覆われる。 尿管は外膜,筋層,粘膜(尿路上皮)で構成され,蠕動運動により尿を膀胱側へと送る働きを持つ。 膀胱は尿を貯留するため,平滑筋層が厚く発達している。収縮可能な袋状臓器で尿管は背面から膀胱内に斜めに開口し,左右の尿管口となる。貯東京都医学検査 Vol. 53 No. 2 一般検査研究班研修会―要旨
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