Ⅴ.泌尿器細胞診報告様式Ⅵ.おわりにⅣ.腫瘍留された尿は,尿道口から尿道を介して外界へと尿を排泄する。 尿道内腔を覆う上皮細胞は尿路上皮細胞,多列円柱上皮細胞,扁平上皮細胞へと上皮が変化する。 腫瘍の分類は主に上皮性と非上皮性のものに分けられ,それぞれ良性と悪性に分類される。今回は,泌尿器系臓器の上皮性腫瘍について述べていく。 上皮の基本的な構造としては粘膜(上皮)の直下には基底膜があり,その下は結合織や血管,リンパ管,神経などで構成されている。早期の癌腫は上皮から発生し,基底膜上に留まっている状態であるが,浸潤癌の場合は基底膜を破り間質内へ浸潤するため,血管やリンパ管への浸潤も見られるようになる。その場合,当然予後に影響してくるようになる。 腎盂,尿管,膀胱,尿道の一部では尿路上皮癌が9割以上ともっとも多く,時間的,空間的に多発傾向や,再発を繰り返すのが特徴である。好発年齢は60代以降に増加傾向がみられる。尿路上皮癌はlow gradeの場合はN/C比が高く,クロマチン増量や一部に核型不整などを伴う小型細胞が孤立散在性や比較的結合の強い集塊としてみられ,high gradeのものや上皮内癌の場合は細胞同士の結合が緩く,核腫大や核軽不整,クロマチン増量などの強い細胞異型を伴う細胞が出現する。 細胞の異型度(悪性度)と癌の深達度は予後との関連性が強く,治療方針決定の上で重要である。 そのほかに扁平上皮癌や腺癌なども発生するため,それぞれの細胞像を認識しておく必要がある。また,その場合は泌尿器系臓器に隣接する大腸や前立腺,子宮・膣などの腫瘍が波及した場合も考えられるため,注意が必要である。 主な異型細胞の特徴と良性および異型細胞の出現パターンを示す。 これらについて研修会では,各症例を解説していく。176東京都医学検査 Vol. 53 No. 2 従来,尿細胞診の報告は報告様式に統一性がなかったが,2015年に日本臨床細胞診学会から「泌尿器細胞診報告様式2015」が提唱され,2016に国際細胞学会およびアメリカ細胞学会から「The Paris System(TPS)」が発刊され,「腎盂・尿管・膀胱癌取り扱い規約」では国際的な報告様式であるTPSが基本採用された。 このTPSは低異型度尿路上皮腫瘍(Low-grade urothelial neoplasia:LGUN)の検出感度は10~43.6%であるのに対し,高異型度尿路上皮癌(High-grade urothelial carcinoma:HGUC)は50~85%であり,HGUCの検出に優れた方法である。 報告様式は今後,標準化に向けて移行していくものと思われる。この報告様式は検体の適否を含む診断カテゴリー,コメントから構成されている。 報告様式は今後,標準化に向けて移行していくものと思われる。結果が正しく評価できていたか追跡する場合にはこのような知識も必要である。詳細に関しては成書を参照のこと。 冒頭で述べたとおり検査に関連する基本的な臓器の構造と機能を知ることはルーチン業務を行う上で重要である。 また,どのような疾患が存在し,診断を行うための検査の概要,そして組織型の違いや浸潤度などで治療法や予後にも違いがあり,これらの治療方法などを知ることは,細胞像の変化に対応するためにも重要である。 そして,鏡検能力を向上させるには,やはり自分が気に留めた症例に対してはしっかりと経過を追跡し,自身の判断が正しかったか否か確認して経験を次に繋げていく努力していくことが重要である。 今回の内容を今後のルーチン業務に役立てて頂ければ幸いである。
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