α1-ミクログロブリン(α1m)]1792)尿細管マーカー・尿中バイオマーカーa. 低分子蛋白[β2-ミクログロブリン(β2m), β2mは分子量11,800,α1mは分子量30,000の低分子蛋白で,どちらも生理的には糸球体で濾過され近位尿細管で再吸収される。尿細管の機能的な障害によって再吸収が低下すると尿中濃度が増加する。β2mは酸性尿(pH 5.5以下)では分解され偽低値となるため,測定時に注意が必要である。また,感染,腫瘍などで血中濃度が増加した場合には尿中濃度も高値となる。α1mは酸性尿でも安定している。b.N-アセチル-β-d-グルコサミニダーゼ(NAG) リソソームに局在する糖質分解酵素で,近位尿細管上皮細胞や前立腺に多く存在する。尿細管に器質的な障害があると,細胞内から尿中に逸脱するので尿細管障害マーカーに位置づけられるが,糸球体障害に伴う二次的な尿細管障害でも尿中濃度が上昇する。精液の混入により高値となるため注意が必要である。c.肝臓型脂肪酸結合蛋白(L-FABP) 分子量14,000の低分子蛋白で,近位尿細管上皮細胞の細胞質に発現。脂肪酸をミトコンドリアやペルオキシソームに輸送し,脂肪酸代謝を調節する。糖尿病性腎症などによる慢性腎臓病(CKD)や急性腎障害(AKI)のモニタリングマーカーとして使用されている。d.好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL) 分子量25,000のポリペプチドで,虚血性尿細管障害や薬剤性急性尿細管壊死で近位尿細管や遠位ネフロンに蓄積する。AKIでは遠位ネフロンでの産生が亢進し,尿中濃度が上昇する。AKIの尿中バイオマーカーとして保険適用がある。白血球の混入で高値を示す可能性があるため,測定には遠心上清を用いる。 尿定性検査や尿沈渣検査に加え,腎機能検査や腎バイオマーカーの特長を理解し,活用すること東京都医学検査 Vol. 53 No. 2Ⅵ.おわりにⅤ.尿化学定量検査 男性:JSN eGFRcys=(104×s-Cys-C-1.019×0.996Age)-8 女性:JSN eGFRcys=(104×s-Cys-C-1.019×0.996Age×0.929)-8 ※妊娠,HIV感染,甲状腺機能障害などでは結果に影響がある1)尿蛋白・アルブミンa.尿蛋白 尿蛋白定量検査法は,色素と蛋白の結合を利用した比色法(主にピロガロールレッド法)が一般的である。蛋白の種類による反応性の差は大きくないが,アルブミンの反応性を100%とした場合,免疫グロブリンでは80~90%,低分子蛋白(Bence Jones蛋白やβ2-ミクログロブリン)では50%前後かそれ以下である。b.尿アルブミン(微量アルブミン) 糖尿病では,尿蛋白定性が陰性でも組織学的変化が進行していることがある。初期の病変(早期腎症)の診断には,低濃度のアルブミン(微量アルブミン)の測定が重要であり,糖尿病性腎症の診断基準の一つとされている。随時尿ではクレアチニン補正を行い,30~299mg/gCrの範囲であれば微量アルブミン尿と判定される。c.クレアチニン補正 随時尿は水分摂取量などの影響を受け,尿の濃縮・希釈が生じる。尿中排泄量を正しく評価するためには蓄尿して1日排泄量を測定する必要となる。しかし蓄尿の手技は煩雑で不正確となりやすく,感染対策の観点からも実施が容易ではない。そのため,1日のクレアチニン排泄量がほぼ1gであることを利用し,随時尿から尿中クレアチニン1gあたりの目的成分の濃度を測定し,1日排泄量を推定する方法(クレアチニン補正)が広く用いられている。
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